第7章 君に負けたくない
想花side
『……うぅ……絶対あれ、黒歴史になる……』
トーナメント抽選会場の列に並びながら、私はさっきのチア衣装を思い出して顔を覆った。
芦戸ちゃんは「かわいかったよ!」って笑ってくれたけど、あんな格好、忘れたくても忘れられない。
(……ていうか、あの時の爆豪くんと轟くんの顔……やば……)
思い出すだけで顔が熱くなる。
……やめてほしい。心臓に悪い。
そんな中、壇上ではプレゼント・マイクのテンションが最高潮に達していた。
「さ~~~て!次はいよいよ個人戦ッ!熱き戦士たちのトーナメント抽選、いっくぜぇぇぇぇっ!!!」
歓声が響く。
一人ずつ名前が呼ばれて、くじが引かれていく。私もそっと息を整えたそのとき――
「すみません。僕、棄権します」
静かに手を上げたのは、尾白くんだった。
「……尾白くん?」
小さく緑谷くんが声をもらす。
すぐに、B組の生徒も同じように手を上げた。
「俺も辞退します。……心操のやつ、すげぇ個性使ってた。自分の意思じゃなかった」
その言葉に、空気が一瞬ぴたりと止まる。
悔しそうに伏せられた尾白くんの目。
でも、誰も責めたりはしなかった。
(心操くん……人使くん)
記憶を探る。たしか、騎馬戦のとき一緒のチームにいた。
でも、どこか少し影があるような……そんな印象が残っていた。
(……何か、仕掛けてくるかも)
先生たちの判断で、棄権者の代わりに2人が追加されることになった。
そして――全ての組み合わせが出そろったその瞬間。
『……え、飯田くん!?』
自分の名前のすぐ隣に並んだのは、まさかのクラスメイトだった。
真面目で、正義感が強くて、真っ直ぐで。
「ああ!よろしく頼むぞ!全力で挑ませてもらう!」
『……う、うん!こっちこそ!』
変わらない丁寧な笑顔と、真剣な眼差し。
その姿に、少し胸がぎゅっとなる。
(うん……私も、ちゃんと向き合わなきゃ)
1対1の勝負。
どんな相手でも、もう逃げない。
(負けたくない。私だって――この場所に立ってるんだから)