第2章 「ぬくもりと沈黙の距離」
彼がお風呂に入っている間、私はリビングでタオルドライのまま、濡れた髪をなんとか整えようとした。
だけど、知らない人とこんなに急接近するなんて、想像もしていなかった。
緊張と疲労と、そして温かい空気に包まれて、私はいつの間にかソファに沈みこんでいた。
どれくらい時間が経ったのか。浴室のドアが開き、軽やかな足音がリビングへ近づいてくる。
「……あの、すみません、お風呂あがりまし──」
彼の声が途中で止まる。 ソファの上で、私は雨に濡れた髪もそのままに、服のままで眠ってしまっていた。
彼はその姿を見て、思わず笑みをこぼす。 まるで何かを大切に思うように、優しい目で見つめながら、静かに近づいていく。
「……起きてます?」
「……起きてますかー?」
「寒ないですか?」
何度か呼びかけるように、彼は小さな声で問いかけ続けた。
はんなりとした関西弁の声が、優しく耳に届いた。
「ん……」
私はぼんやりと目を開け、ぼやけた視界の中にある顔の近さに気づいた瞬間、目を見開いた。
「……っ!」
彼との距離に驚いて、私は慌てて体を起こし、恥ずかしさを振り払うようにそのまま浴室へ向かった。
「す、すみませんっ、今、お風呂……!」
ドアの向こうで、彼のやわらかな笑い声が、かすかに聞こえた気がした。