第2章 「ぬくもりと沈黙の距離」
リビングの空気が少し落ち着いた頃、私はふと、肩をすくめた。 気温はそれほど低くないはずなのに、長時間濡れたままでいたせいか、背中を冷たい風がなぞるように感じた。
(やばい……これ、風邪ひくかも)
それはきっと彼も同じだった。 彼の手元が微かに震えているのが目に入る。 その姿を見た瞬間、私は一つの決意をした。
「……あの、よかったらお風呂、入ってください」
言ってから、自分でも驚いた。 急にそんなことを言い出すなんて、どうかしてる。けれど、このまま震えてる人を見てる方が落ち着かない。
「え、いや、それはさすがに……」
彼が焦ったように口を開く。
「……俺、女の子の家の風呂に入るとか、さすがに気が引けるっちゅーか……」
「寒気してるんじゃないですか?手、震えてますし」
そう言いながら、私は彼の手をぐっと引っ張りながら、強引に話し始めた。
「バスタオルここに置いとくんで、使ってください。あと、強引かもしれませんが……服は洗って乾燥機にかけます。もうここまで来たら入って下さい」
言い切った私は、軽く背中を押すようにして扉を閉めた。
中からは小さな笑い声が聞こえた。
「……強引やなぁ」
けれどその声は、不思議とやわらかく、心地よかった。彼の胸の奥では、優しさと恋に似た感情が入り混じり、小さな刺激のように響いていた。
そして、私には聞こえないほどの声で、そっと呟いた。
「……なんや、可愛いな……」