第2章 「ぬくもりと沈黙の距離」
私も、ソファの上に準備していた自分の着替えに手を伸ばす。 湿った服を脱ぎながら、色々と頭の中が騒がしくて、なかなか動きが進まない。
(名前……聞いてないな、私も言ってないし)
そんなことを考えていたその時――
「すみません、着替え……あ、服とか……」
ドアを開けた彼が声がフェードアウトするように小さくなっていきながら、バチッと目が合った。
「……っ!」
私は咄嗟に上から羽織ろうとしていたシャツを抱きしめたまま、目を見開いた。彼も一瞬固まって、それからすぐにドアを閉め、ドアの向こうで叫んだ。
「ご、ごめんなさい!!すみません!!ほんまに!!……見てへん、何も見てへんから!!」
その声と慌て具合に私も、「だ、大丈夫です……ほんとに、大丈夫ですから!」と慌てて言い返した。
けれど、咄嗟に肌を隠すように抱きしめたシャツ越しに感じる空気が、顔の熱さをごまかしてはくれなかった。
胸の奥まで真っ赤になっていくような恥ずかしさは確かにそこにあって、けれど彼の慌て具合に不覚にも愛おしさを感じてしまい少し笑ってしまった。
それでも平然を装おうとしていた。
リビングには気まずさと、ほんの少しの笑いが混じった空気が流れた。
名前もまだ知らないままなのに、こうして少しずつ、空気が変わっていくのを感じていた。