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『濡れた煙草と、声のぬくもり』snr

第5章 「静けさの中で、滲む思いと触れそうな距離」


沈黙の中、肩越しに寄せ合った体温が、夜の静けさをやさしく溶かしていく。
センラは、私の髪にそっと指を絡ませた。 絡めとった髪を指先でなぞるたびに、じわじわと体の奥が熱くなる。

「好きとか、まだ言うには早いんかもしれへんけど……こんなにも惹かれてるの、俺にしては珍しいねん」

言葉のひとつひとつが、胸の奥にじんと滲んでいく。

「……俺、変かな」

「……変じゃないです」

そう返す声が、震えていたのは私の方だった。
センラの指が、私の頬から首筋をなぞり、鎖骨のあたりで止まる。

「触れても、ええ?」

問いかける声があまりに優しくて、私はそっと目を閉じた。

頷く代わりに、少しだけ首を傾ける。 それだけで、彼の手が静かに服の上から私の体をなぞり、指先が温度を帯びていくのが分かった。

キスが、もう一度、そっと落ちてくる。 今度はさっきよりも、深く、長く。 互いの吐息が重なり合い、空気
がしっとりと湿っていく。

「……の匂い、もっとちゃんと覚えたい」

そう呟いた彼の唇が、頬から耳元、首筋へと優しく降りてくる。

「ん……センラ、さん……」

小さく呼びかけると、彼はその声に微笑みながら、抱きしめる腕をきゅっと強めた。
もう、逃げ場なんてなかった。 この夜、この距離、この空気。 全部が彼を受け入れていく。

ゆっくりと、確かめるように体が重なっていく。 優しさと、触れたいという欲のはざまで、私たちは何度も目を合わせた。
目を逸らさずにいられたのは、そこに“本気”があったからだ。

「……、痛ない?」

「大丈夫……センラさんが、やさしいから」

頬に触れる手が震えているのが分かる。 それはきっと、彼もまた私と同じくらい、不安で、でも嬉しくて、どうしようもないくらい心が揺れているから。

雨音が、遠くなっていく。 静かな夜の中で、ふたりのぬくもりだけが、世界のすべてになっていた。
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