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『濡れた煙草と、声のぬくもり』snr

第6章 「ほどけていく夜のなかで」


唇が重なったまま、ゆっくりと彼の背中に腕を回す。
熱を帯びた呼吸が、互いの頬に触れていた。

「……もっと、触れてもいい?」

彼の囁きに、小さく頷く。
それだけで、空気が変わった。

シャツの布越しに指先が胸元をなぞる。
私も、そっと彼の腰に手を置いた。
体温が、境界線をとかしていく。

「……」

名前を呼ばれるたび、胸の奥がきゅっとなる。
もう止めようとは思わなかった。

キスが深くなり、身体が近づき、
お互いの形を、輪郭を、確かめるように触れていく。

「……大丈夫?」

「うん。こわくないよ」

優しさと、少しの切なさが入り混じった時間。
静かな夜のなか、''ふたりだけの世界''が続いていた。

視線を合わせて、何度も唇を重ねる。
声にならない想いが、ぬくもりに変わっていった。

やがて、ゆっくりと身体を重ね、
抱き合ったまま、ひとつになった。

名前もすべても知らないのに――
なぜだろう、こんなにも愛おしい。

「……ねぇ、センラさん」

「ん……」

「きっと私、あなたを好きになってる」

「俺も。……たぶんじゃなくて、もう、好きや」

その言葉が、まるで救いのように胸に届く。

窓の外では、雨が止んでいた。
雲のすき間から、夜明けの光が差し込む。

「……ありがとう」

「こっちこそ。……会えてよかった」

手を握ったまま、まぶたがゆっくりと閉じていく。
静かな幸福に包まれて――
私たちは、ふたりで眠りについた。

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