第4章 「真夜中の脈とささやき」
私は静かに眠っていたが、ふと目が覚めて、私はそっとベッドを抜け出した。
キッチンで水を一口。冷たい液体が喉を通る間、無意識に視線がソファへ向かう。
センラは薄暗い照明の中、仰向けになり目を閉じている。
私は彼の毛布ががずり落ちてる事に気づき、掛けなおすために近づいた。
そして彼の前でしゃがみこみ、毛布を掛けなおしながら彼の寝顔が気になり顔を覗き込んだ。
……キレイな顔だなぁ──
無意識にそう思ってしまい、ついその頬に指を伸ばしかけたそのとき。
「……なにしてたん?」
ぱちり、と彼が目を開けた。
驚いた私は、思わず小さく尻もちをついてしまう。
──彼は寝たふりをしていた。
その視線はまっすぐに私を捉えていたけれど、口元にはわずかににやけた笑みが浮かんでいた。
「……起きてたんですね」
恥ずかしさで耳まで熱くなった私は、慌てて話を逸らすようにそう言った。
静かな夜に、二人の気配だけが溶けていく。
センラの目はもう閉じていなかった。だけどそれでも、何かを伝えるような、探るようなまなざしで私を見ていた。
「なんか、寝付けへんくてな」
「……こそ、どうしたん?」
「喉、渇いて。……そっちこそ、寝られないって、どうして?」
問いかけておいて、すぐに後悔した。 “どうして”なんて、そんなに軽く聞いていい言葉じゃない。
けれどセンラは、少し視線を伏せたあと、ぽつりと呟いた。
「……なに話してええか、分からんくなったんよ」
その言葉が、胸の奥にじんわりと滲んでいく。
私たちはまだ、お互いをよく知らない。 でも、今日のこの一日で、何かが確かに動いてしまった。 “よく知らない”はずなのに、“知りたい”と思ってしまう。それが厄介で、だから戸惑っている。
「……もう少し、話します?」
そう言ったのは、私の方だった。 ソファにそっと腰を下ろし、彼の隣に並ぶ。
目と目が合う距離。
「……話したいこと、ある?」
センラは少し黙ってから、小さく笑って──
「さぁな。……でも、こうして隣にいてくれるのが、今はちょうどええかも」
と、呟いた。
私はその言葉に、なぜかホッとしてしまう。 そして、雨音に包まれながら、ふたりでただ静かに夜を共有した。
言葉がなくても、通じるものがある。 そんなふうに思いたくなる、真夜中の小さな交差点だった。
