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『濡れた煙草と、声のぬくもり』snr

第4章 「真夜中の脈とささやき」



「……寝ます?」

自分でも、何を聞きたかったのか分からないまま、口に出していた。センラはふっと笑って、目線だけをこちらに寄越す。

「んー……は、眠たそうに見えるけどな」

「……そうですか?」

ちょっとだけ、心臓が跳ねる。名前で呼ばれるだけで、こんなにも胸がくすぐったくなるなんて。
彼の声は低く、柔らかく、それでいて夜の静けさを揺らすような熱を孕んでいた。

「そやけど……オレ、ソファでええからな」

センラがそう言って笑った。

「……え?」

「急に“寝ます?”って言われたから、さすがにびっくりしてん」

「あ、違います! そういう意味じゃなくて……その……部屋、用意した方がいいのかなって……」

しどろもどろに言い訳をする私に、センラは楽しそうに肩を揺らした。

「ふふ、分かってるって。冗談や。……でもありがとな」

センラは立ち上がって、「んー……じゃあ、毛布借りるな」とソファに腰を下ろす。

「風邪ひかないようにしてくださいね」

「了解。……こそ、ちゃんと寝ぇや」

「はい……おやすみなさい。センラさん」

部屋の明かりをゆっくりと落とす。 闇が訪れて、ほんのりとした間接照明だけが部屋を照らしていた。
その光の中で、彼の輪郭が、いつもよりも柔らかく、優しく見えた。

心臓が、またひとつ、静かに跳ねる音を立てた。

(こんな夜が、いつまで続くんだろう)

けれどその答えは、誰も知らなかった。
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