第7章 溺れる
「……………。」
窓から外を眺めるが、
ナックルシティは今日も変わりがない。
初めて来た時は、眺めが良くて
貼り付いて見ていたが、
それも飽きてしまった。
あれから携帯も奪われ、
家から1歩も出されていない。
毎日知らない男に身を捧げていた自分としては、
なんとも平和な毎日だ。
「……む、」
背中の傷も、だいぶよくなった。
包帯も取れて、あとは塗り薬くらい。
キバナさまがたまに服を捲って、
何も言わず戻している。
「…………あ、あれ、」
窓からじっと覗いていると、
中年の男性が見えて、身を乗り出した。
「おとう、……さ……。」
声をかけて、止まる。
……父親じゃない。
男性は反対側の道を歩いていった。
「……、……。」
あれから父親がどうしているか、全く知らない。
逃れられないと思っていた父親は、
僕から遠のいていく。
「……借金…。
大丈夫かな……。」
キバナさまは気にするな、と言っていたけど、
頭の中で自動的に借金と利子が計算されていく。
父親は借金を作るだけで返そうとはしなかった。
今頃、消費者金融に追われているのだろうか。
お金に困った父親が、
この部屋のドアを叩き割ってくるんじゃないかと
キバナさまに言ったら、
面倒くさそうに、
『アイツが来たらボコボコにしてやる』と
一蹴して終わる。
……キバナさまといたら、
僕は安全な気がする。
「…2度寝……。」
殴られていた日々が昔のように感じる。
知らない男に身体を舐め回されることも、
乱暴に抱かれることもない。
「………んん。」
ごろん、とマットレスに寝転がった。
父親に抱かれていた忌々しいベッドとは違う。
綺麗で、やわらかくて、暖くて。
「………。」
朝の暖かい日差しの中、
マットレスに顔を埋める。
もう少しだけ、眠ってしまおう。
寝室の掃除は、昼からでも出来る。
「ん…………。」