第6章 首輪
「美味かったな。」
「はい。」
家主が水をぐっと飲み干す。
僕には水道水を渡されるが、
家主はウォーターサーバーからしか飲んでいない。
「こぼしてんぞ。」
家主が足をとんとんと床に叩く。
床にトマトソースが零れてしまっていた。
僕は床に唇を近づけると、
バカ、と声がした。
「舐めるんじゃなくて。ティッシュで拭け。」
「は、はい。」
床を舐めろという意味かと思ったのに。
床に落ちたトマトソースをティッシュで
拭き取って、皿に乗せる。
ゴミ箱…どこにあるのかわからない。
「お前さ、洗い物できる?」
「はい。家事はやっていましたから。」
「ふぅん…」
家主がグラスを眺めてからテーブルに置く。
洗えという意味だろうか。
床に置きっぱなしになった皿を片付けると、
家主が席を立った。
「机に置いとけばいい。」
「は、はい……。」
「あと、口の周りも拭いとけ。」
そう言われて口周りを拭いた。
トマトがいっぱい付いてしまっていて、
ギプスに飛んだソースも軽く拭き取る。
「ギプスまで付いたな…
今度、机用意してやる。」
「は…はい。」
家主がリビングに歩いていき、僕も続いた。
これからの流れが1個も見通しが立たない。
酷く暴力を振るわれるわけでもなく、食事もくれる。
僕の常識が崩れていき、もう分からない。