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キバナさん 男娼を買う

第5章 救う




 「おい、お前」

 それを引っ張り出すと、やはり少年だった。
 肩まで水で濡れていて、
 携帯を握ったまま固まっている。
 目は閉じられて、丸くなったまま動かない。

 「何してるんだ。こんなところで。」

 肩を揺らすが、少年は目を開けない。
 最悪の事態が頭を過ぎる。

 「おい!!」

 がくがくと揺さぶると、
 ぴくり、と少年の体が動いた。

 「…………、………。」

 「レイ?おい。大丈夫か。」

「…………う…………、おきゃ、く……さ……。」

 少年の目がゆっくり開いて、オレさまを捉える。
 そして、はぁ、とため息をついて目を逸らした。

 「おきゃく、さま……。」
 
 身体を起こす気はないのか、
 地面にうずくまったままぽつぽつと口を開く。

 「ほ、ほんとうに…来て頂ける、とは……。
  思いません、でした……。」

 「来るに決まってんだろ。
 あんな死にそうな声で言われて、放っておけるか。」

 服を捲ると、
 体にはあちこちに暴力の痕が残されていた。
 主に背中ばかりやられている。
 今までで一番酷い。
 赤いミミズ腫れ、打撲、それに、
 まだらになっている火傷。
 至る箇所から血が滲んでいた。
 
 でも、顔だけは不思議なくらい綺麗で、
 殴られてすらいない。
 濡れてるだけだ。

 「顔はやられなかったのか。」

 「商売…道具ですから……。」

 「客にそう頼んだのか?」

 「……………。」

 少年は黙ったままだ。
 下半身の傷はそんなに多くない。
 ……こいつの職業を、分かってやってる。
 背中をNGにしている意味が、ようやく理解出来た。

 「う…………。」

 少年が身体を起こす。
 傷が痛むのが、腕ががくがくと震えていた。
 
 「無理に動くなよ。横になってろ。」

 「だい、じょぶ…です。」

 「大丈夫?どの口が言ってるんだ。」

 「……………。」

 「なんなんだよその身体は…ふざけんなよ。」

 オレさまの顔を見て、バツが悪そうに少年が俯く。
 捲られた服を片手で治した。
 もう片方の腕には、
 大きな痣ができていて、力が入らないのか
 体に添わせたままだ。
 

 少年は腕を抑えたまま黙ってる。
 多分、折れてるんだと思う。
 だから、少しも動かせないし、
 力も入れられないんだ。



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