第9章 リード
「ま、でも女来るまでは空いてるし、
お前との時間にしてやる。
今夜は復帰祝いだ。何がいい?」
「復帰祝い…?」
「お祝いだ、お祝い。」
キバナさまは僕に何かしてくれるらしい。
でも、もう十分もらっている。
食事も、居場所も、何もかも。
欲しいものなんて…全然思いつかない。
「僕…キバナさまの傍にいられるなら、
なんでもいいです。」
「そういうのいいから。なんかないのかよ?」
「ありません。本当に。」
「それじゃあつまんねえ。」
キバナさまが僕についているチョーカーを撫でる。
流石に外では首輪は付けられない。
黒いレース布地のチョーカーだ。
いつも病院に行く前にキバナさまがつけてくれる。
女性ものなのだが、これをつければ
オシャレと思われるらしい。
僕がキバナさまに飼われていることを
バレたことはない。
「キバナさん。また連れてきてるの?」
「ああ。通院日でな。
やっとギプスが取れた。」
「あらそう!良かったわね。」
通りがかった看護師さんが
こちらに話しかけてきた。
キバナさまがへらへらと笑って対応している。
ジムリーダーとしての顔だ。
「どう?君、元気になった?」
「……………。」
看護師さんに話しかけられて、
僕は口をぎゅっと閉じた。
キバナさまがそれを見て、困ったように笑う。
「人見知りでな。」
「まだ話してくれないのね。
かわいい顔してるんだから、
ニコニコ笑えばいいのに。」
頬に触れられそうになり、後ろに下がった。
それを見て、看護師が残念そうにしている。
「キバナさんとは話すの?」
「まあな。遠いが、コイツとは親戚だし。」
「そうだったわね。」
『遠い親戚の子』を
『たまに病院に連れてってやってる』。
それが僕とキバナさまの外での設定、だ。
キバナさまはジムリーダーで、顔が売れているから
病院に行くといつも話しかけられる。