第17章 前哨戦
秋晴れの東京レース場。
18名のウマ娘たちの芝を蹴る音が鳴り響いている。
キトウホマレはいつものように中団の後ろの方で待機して、目の前のバ群を追っていた。
向こう正面から第3コーナーへ進む。
下り坂でスピードが乗り、全体のペースがじわじわと上がってきている。
『(残り1000メートル。今のところ順調。あとはタイミングよく仕掛ければ……)』
スタミナも十分に残っているし、速度も安定している。
神座から仕込まれた瞬発力を活かせればこのまま勝ちにいける気がした。
左回りに榎を越え、コーナーの中間に差し掛かる。
『(もうすぐ……)』
第4コーナーの出口付近での仕掛けに備えようと動くも、移動しようとした先には他の後方勢のウマ娘たちが固まっていた。
『(外が壁みたいになってる……!?さすがに今の位置からの大外はロスになる。でも前には出なきゃ……)』
ふと見ると内ラチが空いていた。
荒れた芝の空白が先頭の方まで続いている。
『(入れる……けど前を塞がれて出られなくなるかも)』
しかし無理に外に膨らんでからゴールを目指すよりはまだ可能性があるように思える。
判断が遅れて動きが鈍くなるのも避けたい。
『(イチかバチか……内で!)』
運に任せ、覚悟を決める。
第4コーナーの緩やかなカーブを曲がりながら、ホマレは内ラチへ身体を滑り込ませた。
泥混じりの荒れた芝が足を掴み、踏み込むたびに沈む感触が伝わる。
ホマレの肩に他のウマ娘の腕が掠めた。狭い。
ラチとの狭間に押し込まれ、逃げ場のなさに焦りを覚えた。
それでも、脚を緩める理由にはならない。
『(臆するな……!ここで沈めば何にもならない。絶対に抜け出してやる!)』
今日の目的は観客の印象に残る走りをすること。
目立たずに帰るなんて以ての外だ。
『(押し込めば進める! 力ずくで前進しろ!)』
靴裏が土を巻き上げる音とともに、ホマレは肩を落として重心を低く保った。
一歩ごとに押し潰すように地面を踏み締め、振り切るように体ごとラチ沿いを抉じ開けていく。
『(大丈夫……塞がれずに済む……!)』
目の前がわずかに拓けた。
直線に差しかかった瞬間、その隙間に目掛けてスパートを掛ける。
スピードに乗るというより、力で押し流す奔流のようだった。