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ラストラインを越えて

第24章 ファン感謝祭


子供も気付いたようで、チラリと振り返ってからまたホマレを見上げる。
「ママ来ちゃった。じゃあね」
そう言いながら親の方に向かって子供が歩き出した。
『今日は来てくれてありがとう!まだまだ楽しんでいってね~』
「うん。これからもがんばってね、ホマレちゃん。次のレースも絶対観るから」
お互いに手を振りながら別れる。
子供が駆けていく後ろ姿を、ホマレはしばらく目で追った。
『(……有馬記念、私ずっと最後方だったのに)』
あの日、誰も見ていないと思っていた自分の走りを見てくれていた人がちゃんといる。
その事実に少しずつ嬉しさを実感し、ホマレは尻尾をゆらゆらと振りながらまた座り込んだ。
「戻りました。好きな方を選びなさい」
神座が戻ってきた。手にはコーヒーの缶と紅茶のペットボトルを持っている。
『ありがとう。紅茶にしよっかな』
「……上機嫌ですね。何かあったんですか」
ニコニコしながらペットボトルを受け取ったホマレに神座が訊く。
離れる直前まで居心地悪そうにしていたのに、今はやけに嬉しそうだ。
言及されたホマレは少し照れくさそうに忍び笑いをしながら立ち上がり、左耳を指差した。
『トレーナー。私が全力で走るとね……耳飾りが流れ星みたいになるんだって。知ってた?』
先ほどの子供がしたように、タッセルの部分を後ろ側に軽く引っ張る。
輝く細長いフレームの星に、房飾りの尾。空に瞬く流星の体は成していた。
神座はしげしげと耳飾りを見つめ、すぐに視線を外す。
「……。そう見えなくもないですね」
『でしょ~。さっき来てくれたファンの子が教えてくれたんだ』
紅茶を一口飲みながら、ホマレは弾むような足取りで木陰から出た。
『ねぇ、もうしばらく中庭うろちょろしたいな。たしかに日差しはキツイけど、せっかくの感謝祭だし……また一緒に来てくれる?』
「ええ、いいですよ。あなたに声を掛けたい人が他にもいるかもしれませんし」
誘いに応じた神座と並んでホマレは人混みの多い方へ向かっていく。
歩くたびに耳飾りの房が軽快に跳ね、踊るように風に靡いた。









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