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ラストラインを越えて

第16章 勝負服


「前から欲しかったんですね。なら、ある程度デザインの理想が固まっていたりしますか」
『あ……GⅠ出れると思ってなかったから考えたことなかった』
少し呆気に取られたような顔でホマレが返す。
けれどすぐに神座を見ながら声を弾ませた。
『でもカッコイイのがいいなっ。エレガントなスーツとか、黒多めで差し色に赤とか!』
「……あなたには少し地味じゃないですか?」
『地味じゃないー。カッコイイですー』
ホマレは手足をバタバタさせながら抗議した。けれど神座はそれ以上何も言わず、静かに目を伏せる。
『えっ……な、なに?』
「2日待ちます。空いた時間でどういうのがいいか、要素だけでも箇条書きでまとめて来るように。あなたが本当に着たい勝負服をちゃんと想像してみてください」
テーブルに置いていた紙をトントンと指で軽く叩いて、神座は言葉を継いだ。
「それを元にしてデザインを決めましょう。ブラッシュアップやデザイン画の作成は僕も手伝いますので、特定のアイテムやコンセプトなど取り入れたいものをある程度決めておきなさい」
『コンセプト?』
「自分が大事にしている信念や矜持などを象徴するような要素を組み込むんです。それは品格や愛嬌などの「他人からどう見られたいか」という反映でもいいし、自分の中だけで消化する概念でもいい。要は……何を背負ってレースに臨むか、という思想の具現化を図るわけです。まあコンセプトは特になければ無いで別にいいですが」
『ふーん……?』
神座の説明に首を傾げながらホマレが続ける。
『走るときに自分を支えてくれる希望があった方がいいって感じ?』
「そうですね。勝負服は華やかな衣装というだけでなく、走りに影響を及ぼす“道具”にもなります。互角の実力を持つ二人が片方だけ勝負服を着て併走したところ、明確な差が出たという記録もある。気持ちの在り方が結果に作用する可能性は否定できません」
『うーん。よく分からないけど、自分を見つめ直してみるのもいいかもね』
ホマレが紙に要点をメモしながら返す。
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