第16章 勝負服
『わ……私も、自分だけの勝負服が欲しいな。貸し出されてるやつじゃない衣装で出たい』
そう言ってチラリと見ると、神座もホマレを一瞥してから返した。
「出走が決まってから発注しても間に合いませんよ」
『そ、そっか……そうだよね。じゃあ、いいや……』
神座の言葉にホマレがしょんぼりと肩を落とす。
そもそも自身の有馬記念出走は奇跡でも起こらない限り叶わないから残念がっても仕方ないか、とホマレは小さく溜め息を吐いた。
落ち込むホマレを傍目に、神座は白紙とペンを取ってテーブルの上に置く。
「……どこに頼むかにも寄りますが、11月前半までに注文できたら有馬より前に納品される可能性は高いです。今のうちから発注の準備を進めましょう」
『えっ』
ホマレが神座の言ったことに驚き、顔を上げる。
間に合わないと言われ却下されたと思ったのに、かなり前向きな提案が出た。
「レース前の大事な時期と被ってしまいますが、あなたの希望を通すなら出来るだけ急いだ方がいいです。まずは衣装のデザインのアイデア出しと、依頼する勝負服デザイナーの候補をいくつか絞るところからですね」
『……いいの!?』
出られるかどうかも分からない有馬記念のために特注の専用衣装の製作を許可してくれるなんて。
信じられない心地で聞くホマレに、神座は事もなげに頷く。
「ええ。有馬記念でなくとも、いずれはGⅠに出す予定ですし。今のうちに作っておいて損はないでしょう」
『うわーッ!やった!』
ホマレは喜びのままに両手を振り上げながら椅子から立ち、その場で飛び跳ねた。
『ありがとうトレーナー!私ずっと勝負服ほしかったんだぁっ!!』
「静かにしなさい。他の部屋に響きます」
『はーいっ!へへ……』
神座に諌められて、また座る。その背後で高揚を抑えられない尻尾の毛が高く舞っていた。