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ラストラインを越えて

第16章 勝負服


『おりゃああッ!!』
気合いを入れながら鉄球を握っていると、誰かに手を掴まれた。
「止めなさい。怪我しますよ」
『あっ、おかえりトレーナー!』
神座が戻ってきていた。ホマレは表情を明るくしながら手に力を込め続ける。
『あとちょっとで潰せるから待ってて!』
「待ちません。今すぐ止めなさい」
鉄球握りが白熱していたホマレを神座がピシャリと言葉で制止する。
ホマレは鉄球と神座を交互に見て、手の力を緩めた。
『…………』
そして、少しふて腐れたような表情で神座に鉄球を差し出す。
「なんですか。僕はウマ娘じゃないのでその重さの鉄球は持てませんよ。自分で箱に戻しなさい」
『……はーい』
何でもできる神座なら鉄球も握り潰してくれる気がしたが、手に取ることすらできないらしい。
ホマレは少しがっかりしながらソフトボール大のままの鉄球を箱に戻した。ズドンッ。
「言っていたメニューは済ませましたか?」
『やったよ。次は何する?』
「一旦休憩した後にバーベルスクワットを中重量で10回3セットいきましょう」
最近はスピードと併せて体幹と脚力の強化をより重点的にトレーニングに入れている。
ホマレの課題である瞬発力はやや改善されつつあった。
そうしてジムでの特訓が終わった後、2人は校舎を出てトレーナー室へと戻る。
『次のレース、こないだの京都のより上手く走れたらいいな……』
自分の私物を入れているロッカーを漁りながらホマレが不安そうに言う。
アルゼンチン共和国杯まであと1週間と少し。練習は順調ではあるものの、GⅡのプレッシャーがどうしても強い。
「そうですね。アピールが主な目的なので観客に良い印象を残さなければいけません。どんな状況になっても最後まで諦めずに走ってください」
『うん。……1着取れるように頑張る!』
1着になれば間違いなく注目度は上がる。そしたら有馬記念に確実に近くなるだろう。
私物の整理を終えたホマレは一息吐きながらパイプ椅子に座った。
『ねぇ、神座トレーナー。まだ全然いける気はしないけどさ、もし本当に有馬に届いたら、出走できることになったらさぁ……』
視線を落とし、言いづらそうにモジモジと肩を揺らす。
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