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ラストラインを越えて

第15章 ファン投票


ホマレはまだ自分がどうしたいのか分からずにいた。
神座の目を見れずに机に視線を落とす。
『もし……有馬に出られなかったとしても、やってきた色々がムダになるってことはないんだよね?』
「そうですね。トレーニングもレースも広報活動も、他にいくらでも繋がります。リスクもゼロですし……挑む価値はあります」
ペナルティが課せられるわけでもなく、目先に明確な目標もないのだから試して損はない。
しかも選ばれるかどうかより、有馬記念のファン投票の期間中にどれだけ支持を伸ばせるかに重点を置いているみたいだ。
プレッシャーもそれほど無さそうに思えた。
『それなら、目指してみたいかも。……一応』
親指と人差し指をちょこっと開きながらそう言うと、神座は静かに頷いた。
「わかりました。一応でも構いません。意思確認もできたことですし、明日以降は有馬のためのメニューにしていきます。大まかなスケジュールも後で送っておくので寝る前に確認するように。……ミーティングは以上です」
『はーい』
自分よりも神座の方がやる気に満ちている気がする。 テーブルの上を片付けている神座を見上げながら、少し口元を緩めた。
『(最初の頃と変わらないな……)』
担当契約の件でスカウトされた時のことを思い返す。
去年の初夏、才能も期待もないドン底のウマ娘がどこまで這い上がれるか検証したいと言っていた。
その神座の指導で着実に速くなり、レースにいっぱい出られて、ファンも増えてきている。
今回の有馬記念に向けた取り組みも、より強くなるための要素になるだろう。
まだ目立つような戦績はそんなにないけれど、神座の示すものが一貫しているおかげで当初の目的がちゃんと今に繋がっている気がした。
『(提案……断らなくてよかった)』
いつも通り無感情な神座の動作が、いつもより柔らかく見える。
なんだかんだ神座にとっても有馬記念は気合いの入る目標なのかもしれない。
『(有馬出走は無理だろうけど、できる限り頑張ろう)』
ホマレも帰るための準備をしながら、改めて有馬記念のファン投票に対する意欲を淡く燃やすのだった。









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