第15章 ファン投票
あっさり有馬記念を流そうとする神座に、焦ったように手を伸ばして止める。
『やっ、ちょっとほんとに一旦待って? GⅠだし、グランプリってファン投票のやつだよね?そもそも投票を集められる自信もないんだけど』
「僕もあなたがいきなり10位以内に滑り込めるとは思っていません。残りの6名に食い込むのも現時点のファン数ではかなり難しいでしょうし」
『ほらぁ、やっぱそうじゃん。何のつもりで有馬に挑もうなんて言ったの?』
訊くと、神座は当惑するホマレの目をまっすぐに見つめた。
「出走できる可能性があるからです。来月にはファン投票が始まります。そのファンが足りなければ、少しでも増えるように動けばいい。もしあなたが有馬記念に挑戦する意欲があるのなら、僕は相応のサポートをします。ファン獲得に繋がる出走計画や、露出の機会を最大限に組み込みましょう」
有馬記念に出たいかどうかなんていきなり聞かれても困る。
ホマレは眉を寄せながら神座の顔を窺う。
いつも通り無表情だ。けれどホマレには分不相応なレースへの出走を提案するのは些か普段の神座らしくないような気がした。
『もしかして、有馬記念を通して私に何か学ばせようって感じ?』
去年の今頃、ダンスレッスンの最中にファン数の重要性について説かれたことがある。
出走が叶わなくてもその過程で得られるものがあるのかもしれない。
そう思って聞くも、神座は首を縦にも横にも振らなかった。
「……国内最高峰のレースにあなたも出たがるのではと思い、先んじて意思確認をしたまでです。もし出たい場合、今のうちから出来る限りのことを始めないと間に合わないので」
『あ……そうなんだ』
目標レースに自分の担当ウマ娘の希望を取り入れようとしただけみたいだ。
拍子抜けしたものの、ホマレは少し肩の荷が降りたような気持ちになった。
『うーん、どうしよ。興味はあるし出られたらすごいなって思うけど、正直なところ怖さが勝つかな』
ホマレが手慰みに、手帳の端を揉みながら神座に言う。
票が大して集まらなければ自信の喪失に繋がるかもしれないし、もし何かの間違いで出走できたとしてもファンの期待を裏切ってしまいかねない。
『ちなみに、有馬に出るためのファン獲得計画ってどういうことするの……?』