第15章 ファン投票
10月の上旬、キトウホマレはトレーナー室で神座とレース後の振り返りをしていた。
2日前に出走した京都大賞典。結果は6着だった。
「概ね指示通りに走れていましたが、あなたの体感的にはどうでしたか」
神座に問われ、端末に出された京都レース場のコースの画像を指差しながら答える。
『えーっと、第3コーナーの急坂は思ったより消耗しなかったよ。あとはラストの直線が平坦で、先行勢がすっごい伸びてたから少し焦っちゃった。瞬発力をいまいち出しきれてなかったかも……』
ホマレは指でススス、と自分のレース時の進行を再現した。
「たしかに最後の加速はそこまででしたね。第4コーナーの下りを上手く利用できていたらもう少しタイムを縮められたはずです」
スピード勝負は相変わらず不得手だった。
けれど今回は、伸びを欠いた理由がスパートの掛け方にあると自分で掴めている。
以前までの致命的な脚の鈍さからは抜け出せていると実感ができた。
「スタミナは問題なさそうですが、やはり課題はラストスパートですね。瞬発力や末脚の持続を意識したトレーニングを増やしていきましょう」
『はーい』
自分用のメモ帳に話の内容をざっと書きながら、神座の言うことに頷いて返す。
また顔を上げると、神座が続けて言った。
「あとは今後の目標ですが……ホマレは有馬記念に興味はありますか?」
『へ? 有馬記念って、年末のGIだよね。観戦連れてってくれるの?』
皐月賞以来だ。ホマレが嬉しそうに聞くと、神座は首を横に振る。
「いえ。観戦ではなく、選手として出走したいかという意味で訊きました」
『出走……?私が?』
ホマレが持っていたペンをポトリと落とす。
「グランプリのレースに挑戦してみませんか」
『えっ……待って。神座トレーナー、本気?早くない?』
GⅢに続きGⅡの出走も果たしたものの掲示板を逃したホマレに、さらにその上のGⅠで善戦ができるとは到底思えない。
しかもGⅠの中でも1、2を争うほどの有名なレースとくれば、ホマレがどう頑張ろうと優駿に埋もれる以外の未来はないだろう。
「冗談に聞こえましたか?挑む気がないのであれば有馬を念頭に置かない路線で進行しますが」