• テキストサイズ

ラストラインを越えて

第14章 気晴らし


『ねぇ、これさっ、こないだの浜辺でもやってみたかったなっ』
弾むような声の奥には疲労感と少しの怒気が滲んでいた。
『つかまえてごらんなさ~いって言いながらカップルが走るやつ、みたいにさ……!』
浅瀬でキャッキャウフフと遊べなかった夏合宿を思い返し、恨み言のように言う。
自由時間に個人で堪能したものの、本当は神座とも一緒に楽しみたかった。
そう出来なかったのがわりと不満だった。
「……捕まえてごらんなさい。できるものなら」
そう煽る神座の口元がフッと笑った気がした。





15分後。
『も、もう……無理ィ……』
あれから止まることなく動き続けていたホマレがヨレヨレと体育館の床に膝を突く。
結局神座を捕まえることはできなかった。
「頃合いです。10分休憩したらラダーの練習を再開します」
いつもと変わらない淡々とした調子で神座が言う。
『はぁい……』
息を落ち着かせながら水が置いてある体育館端までホマレが歩いていく。
『(神座トレーナー、全然汗かいてないし息も上がってなかったな……)』
ファンタジーじみた反応速度で避け続けていたのに喋ったり指摘したりする余裕も持っていた。
人間としてどうかと思う。
ホマレは自分のタオルで汗を拭いながら水に口を付けた。
『……ふぅ』
一泡吹かせるつもりだったのに最後まで神座は疲れた様子すら見せなかった。
端から見れば、ホマレがただ一人で空回っていたようにしか見えなかったに違いない。思い出すとちょっと恥ずかしくなる。
遠くで練習している他のウマ娘と目が合ったとき少し気まずかった。
『(でも……リフレッシュにはなったかな。追いかけるの楽しかったし)』
相応に疲れはしたけれど、さっきまでの倦怠感は嘘みたいに消えている。
先ほど鬼ごっこに興じていた場所にまたラダーを敷き直している神座を眺めながら、ホマレは静かに息を吐いた。









/ 132ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp