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ラストラインを越えて

第14章 気晴らし


5歩もかからずに追いつき、そのまま肩を掴もうとホマレは勢いよく手を突き出した。
しかしまた寸でのところで避けられてしまう。
『あっ、また……!』
少し離れた神座に一歩の踏み込みで距離を縮め、今度こそ掴まえようとネクタイに手を伸ばす。
先ほどと同じようにひらりと躱されまた距離が開いた。
『ねー!髪すら触れないんだけど!』
無効の範囲すら届かない。
ホマレは離れていく背中に向かって言うと、神座は余裕そうに振り返った。
「何も考えずに突っ走るだけでは、いつまでも捕まえられませんよ」
言いながら神座は指で手招きし、続けるよう促す。
涼しげな顔で待ち構えているのを見て、ホマレは思いきり駆け出した。
『(汗だくにしてやる……!)』
速いことがウマ娘の強みなのに、そうじゃないトレーナーに簡単に逃げ回られている。
最後まで捕まえられなくても、せめて疲弊させるくらいはしたい。
挑発に乗せられる形で、ホマレは避けられる端から距離をつめ拳を繰り出していく。
「レースとは程遠い状況ですが、瞬間的に導線を読み取り相手の思惑を見抜くのは大事です。それを利用し翻弄できれば展開は変わります」
ホマレのラッシュを必要最低限の動きで避けながら神座が説く。
まったく息の上がっていない声で続けた。
「どんなに速いウマ娘でも、状況が悪ければ100%の力を出すことはできません。規定の範囲内でどれだけ妨害するかも戦法の内です」
『さっきから……やってるってばぁ……ッ!』
陽動も牽制も何も通用しない。
動体視力、フェイントの識別や予測、瞬発力、体幹――その全てが常人の域を逸脱している。
これだけの身体能力があれば大体のスポーツで天下が取れるだろう。
『意味分かんない……もうトレーナーがウマ娘やりなよ……!』
あまりにも捕まらなくて、つい脚が出た。しかし神座はホマレの脚払いを華麗に回避する。
「それは無理な話です。僕は時速70kmでは走れませんし、何より男ですからね」
音もなく着地し、神座はまた距離を取った。
それを息絶え絶えに追いかけながらホマレが言う。
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