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ラストラインを越えて

第13章 転向


『ただいまーっ!』
控え室のドアを開けながら、ホマレはやや高揚した声で神座に呼び掛ける。
「お疲れ様です。水とタオルはそこに置いてます」
『あっ、ありがとう』
鏡の前に用意されたタオルを取り、汗を拭く。
『神座トレーナー……私、3着だった!』
「ええ、見ていました。位置取りも問題なく、仕掛けのタイミングも悪くありませんでした」
『本当?上手くできて良かったぁ』
神座の言葉に安堵した様子でホマレは息を吐いた。
『西日がすごく眩しくって、でもそのおかげでいっぱい追い抜けたんだ』
少しバツが悪そうに笑いながらホマレが言う。
「第3コーナーの辺りですね。あまり動揺せずに対応出来ていました。ゴール前の急坂での減速もそこまで酷くなかったです」
課題はまだまだありそうだけれど、わりと肯定的な感想に思えた。
ホマレは少し嬉しそうにしながら尻尾を高く振る。
『坂ほんとに大変でした~。まさかあんなに体力持ってかれるとは思わなくてビックリしちゃった』
「芝はダートとはまた違うデメリットがありますからね。それを実際に体感しながら走るのは良い経験になったはずです」
ホマレは頷きながら、自分の脚に残る感覚を確かめるように膝をさすった。
芝は沈まない分だけ軽く、でもそのぶん反発が強い。
ダートで鍛えた脚力が今は頼もしくもあり、少し過剰にも感じられる。
芝もダートも適性はあるものの、精度を高めるならどちらか1つに絞った方がよさそうだった。
「これからはより一層芝と追い込みメインの育成をしていく予定ですが、今回の転向に後悔はありませんね?」
『ないで~す!』
たしかに芝のレースは苦しかったけど、走っていて楽しくもあった。
ダートの沈むような感覚とはあまりにも違う。
力任せで押し切る戦法も嫌いじゃない。けれど、やっぱり軽やかに駆けることのできる芝の方が好きだ。
ホマレは機嫌良さげにウイニングライブ用の衣装に着替え、浮かれた足取りで控え室を後にした。









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