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ラストラインを越えて

第13章 転向


『(ダメだ……抑えなきゃ)』
ここで調子に乗ると、脚を使いきってしまい後がなくなるリスクがある。
ホマレは体を起こしてバランスを取りながら速度の調節を試みた。
緩やかに落ちていく傾斜が、全体のスピードをじわじわと上げていく。
去年の未勝利戦のダートは泥濘んだバ場のせいで非常に滑りやすかったけれど、今日は何てことない晴れの芝だ。しかしこんなにも気が抜けないなんて。
焦りとスピードを抑えつつ、ホマレは第3コーナーへと進んでいく。
段々と曲がっていく先行勢に意識を向けると、数人ほど何かに怯んだような動きを見せた。
『……?』
何だろう。風が砂ぼこりを巻き上げたか、ブヨの群れに突っ込んだか。
少し警戒しながらその地点を通過する瞬間、ホマレは眼球に痛みを感じた。
『(眩しい……ッ!!)』
原因は西日だった。咄嗟に太陽から視線を反らし、ホマレは手前のウマ娘で光を遮った。
目や肌に突き刺さるような斜陽がウマ娘たちの視界を奪う。
眩むほどの強い刺激を目に受けたウマ娘のいくらかがわずかに左右にヨレた。
『(西日のせいで乱れてる。……チャンスかも)』
他のウマ娘たちの動揺を見つつ息を入れ直す。
ホマレはそれらにぶつからないよう、やや内に進路を取りながら第4コーナーに入る。
西日と遠心力に耐えながらカーブを回り、やがてコーナーの出口が近付く。
仕掛けどころだ。
ホマレは溜めていた脚を一気に踏み込んで第4コーナーを抜けた。
『(ここから全員撫で切ってやる!)』
スタンドからの歓声が段々と大きくなる。それに合わせるように、ホマレは最後の急坂目掛けてスピードを上げていく。
左側から降りかかる観客席の熱気を浴びながら、下り坂でついた勢いが若干殺されてしまった中団や先行勢を追い越した。
『(もう皆眩しくなくなっちゃう。追い抜かれないように……!)』
西日は視界から消え、自分の影を追いかける形になった。
目の前にはまだ2人もいる。背後からは遅れを取り返すように迫ってくる無数の振動を感じた。
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