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ラストラインを越えて

第12章 夏合宿


『……ねえ、トレーナー』
暗い海を眺めながら、ホマレは小さく声を落とす。
『3年間と言わずさ、この楽しい時間がずっと続けばいいなって……私は思ってる。その……できれば、トゥインクル・シリーズが終わった後も契約を延長してほしいな……なんて』
いつか来る別れが惜しい。
恥ずかしそうに言葉尻を濁すホマレに、神座は少し目を細めて応じた。
「気が早いですね……あなたはまだクラシック級の半ばです。延長の申請なら3年目の終わり頃でも間に合います。合否はその時でいいでしょう。それまでに、ちゃんと進路を考えておきなさい」
『返事は1年半も後ってこと?……でも、進路かぁ。トレーナーが延長してくれるようなウマ娘にならなきゃですね』
嬉しそうに微笑むホマレを置いて、神座はまた砂浜を歩き出す。
それを追いかけて、ホマレは波打ち際から離れて神座の横に並んだ。
『トレーナーは私にどんなウマ娘になってもらいたいとかあります?』
「特にありません。真っ当に走りさえすれば、それで」
隣からの質問に、一瞥もせず返す。
「あなたが望んだ未来へ進めるよう道を整えるのが僕の役割です。あなたはどういうウマ娘になりたいですか?」
神座に問い返され、ホマレは難しげに首を捻った。
『んー……』
どんなウマ娘になりたいか。それは競技人生そのものに対する目標だ。
ある者は日本一になると言い、またある者は無敵の三冠達成を宣言した。
いつの世代にも存在する、多くのウマ娘が渇望する栄誉。
ホマレはそのような大きな夢を見ることすらできない位置にいたため、何かを成し遂げ、何者かになり得る未来を思い描いたことがなかった。
『私はねぇ……このまま神座トレーナーの指導で強くなって速くなって……』
頭の中で整理することなく、浮かんだ端から言葉を口に出していく。
思考に気を取られ、歩くテンポがやや遅くなった。
『1着をいっぱい獲れるウマ娘……ってのもやっぱ憧れるけど……。なんだろな、それはきっと無理だし、なんか違うかも』
どんな時代にも優駿はいる。どんなに強くあったとしても、それは長い歴史の中のほんの一瞬の輝きに過ぎない。
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