第12章 夏合宿
少し照れたように笑いながら、俯いて濡れた砂を足先で掻く。
『トレセン学園に来る前までは常にそうだったんですよ。子供向けのチームクラブではいつも褒められてたし』
神座も足を止め、ホマレの言動をただ見つめる。
『元々は走るのが大好きだからトレセン学園に入ったんです。で、入学できたのまでは良かったんだけど……全然速くなれなくて。段々と走るのも、ただ苦しくて辛いだけ……みたいに思えてきて』
在りし日の焦燥を思い返し、少しずつホマレの声が波に削られていく。
入学してからやっと、自分の素質が特別でも何でもないことに気が付いた。
むしろ学園の中ではかなり下の方。
引く手あまたの才能に恵まれた本物の優駿たちを見て、ますます自身の存在が滑稽に感じられた。
『私は遅くて弱くて小さくて、見込みがないから誰からも欲しがられなかった。毎日不安で、デビューすら出来ずに全盛期が終わるかもって……独りでずっと焦ってたんです』
言いながら、ホマレは砂を掻く脚を止める。
『でも……今はそうじゃない』
俯いていたホマレが黙って見つめている神座に目を合わせるよう、ゆっくりと顔を上げた。
『あの日、神座トレーナーが声掛けてくれたから、沈まずに済んだ。……私を見つけてくれた。契約してから今までの全部、トレーナーのおかげ』
「……」
『神座トレーナーのおかげで、毎日楽しくて楽しくてたまらないんです。本当にありがとうございます』
海から吹き付けてくる風で髪を巻き上げながら、ホマレは屈託のない笑顔でそう言った。
「別に、僕はあなたを楽しませようと指導しているわけではありません。あなたとの3年間は……僕にとって、ただの検証であり退屈しのぎです」
『あははっ、ひどい言い訳。そんな理由でトレーナーやってるの神座トレーナーくらいですよ』
ホマレは笑ってそう言ったあと、波に足を取られそうになりながら数歩進んで、ふとまた立ち止まる。