第12章 夏合宿
夏合宿中盤。真夏の太陽が砂浜に降り注ぐなか、3人のウマ娘が併走をしていた。
「ほら、もっと速く!そんなもんじゃないでしょ?」
「末脚を爆発させるのよ。ホマレならできるわ」
目の前の2人が走りながらそう声をかける。
『はぁ、はぁ……っ』
必死に追い縋るものの、ゴール地点が近付くにつれて2人の背中は遠くなっていった。
「はい1着~!」
「さすがはスプリンターね。差し切れなかったわ」
2秒遅れで神座の前を通過したホマレが息を整えながら2人に駆け寄る。
『アルターもギンガちゃんもすごく速いね……!全然追いつけないや』
この日ホマレはギンガウェーブとアルターアワーに協力してもらい、追い込みの練習を行っていた。
砂浜を400m、最後の直線を想定した距離で併走する。
1回目を走り終えたホマレに神座が言葉をかけた。
「砂浜で沈む分、踏み込みが浅くなっていました。重心をもう少し低く、腰で押し出す感覚を意識しなさい」
『はいっ!』
「5分間休憩のあと2本目をしましょう。各自日陰で水分補給などするように」
全力疾走で上がった心拍数を落とす時間を与えられ、3人で近くの日陰に入る。
「ホマレのトレーナー、相変わらず無愛想ね。それとも私たちが居るからそう振る舞ってるだけ?」
神座を見やりながらギンガが訊く。
『ずっとあんな感じだよ。顔も話し方も初対面から何も変わんない』
「なーんだ。浮いた話でもあるなら聞こうと思ったのに~」
アルターがホマレの頬をうりうりしながら揶揄うように言った。
『へへ……あるように見えたら逆に驚くよ』
少し遠くの神座の背中を見つめながら、ホマレは困ったように眉を下げる。
出会ってから一年以上が過ぎたものの、神座の表情が変わったところを見たことがない。いつでも誰に対してもそうだ。
今だって、アドバイスを仰ぎに来た他のウマ娘に淡々と無表情で対応している。
『(分け隔てがないのはいいこと……なのかな?)』
誰よりも時間を共有しているはずの唯一の担当ウマ娘であるキトウホマレになら、多少親しみのある素振りを見せてもいいだろうに。
ホマレはいまだに神座の感情の機微を測れた試しがなかった。