第12章 夏合宿
『うん。じゃあ行ってきまーす』
聞き慣れた助言をもらい、走り出す。
『(……ダートより走りにくい!)』
踏み出すたびに、とにかく着地で脚が沈む。足首まで埋まりそうだ。
低強度のトレーニングとはいえ、いつもより負荷があった。
「呼吸のリズムが乱れてきています。集中しなさい」
『はぁーい!』
通りすぎ様に神座が声をかける。
こまめな休憩が挟まれてはいるものの、同じ場所を何度も往復しているから体力的にも視覚的にも飽きが来ていた。
『(暑い……!)』
海が目の前にあるのに入れないなんて。
神座がよしと言うまで1人でずっと砂をもしゃもしゃ踏み続けるしかない。
波の誘惑に負けないように、背後からの監督者の視線を意識するので精一杯だ。
汗だけで水浸しになった自身の水着に嫌気が差しながら、ホマレは焼けた砂浜を素足で走り続けた。
「お疲れ様です。次はダッシュ練習に移ります。10分ほど日陰で休みなさい」
『了解……』
神座から水を受け取り、休憩スペースに座る。
脚にまとわりつく砂粒を払い落としながら、トレーニングをしている他のウマ娘たちを眺めた。
『(チームとかの複数で特訓するのも楽しそうだよなぁ。こういう時はちょっとだけ羨ましいかも)』
砂浜で笑い合って走り回っている姿は何とも眩しい。
競い合う相手がいたらモチベーションも上がりやすそうだ。
『(まあ……実際に他のコもずっと一緒にってなったらイヤだけど)』
ホマレは神座の付きっきりの個別指導でどうにかこうにか形になっている。
他のウマ娘との同時育成では自分のためだけに使われるはずの神座の時間や意識が分散され、今よりも成果は落ちてしまうだろう。
手慰みに、容器を揺らして水を回しながらそんなことを考えて過ごした。
「休憩はおしまいです。立ちなさい」
もう10分が経ってしまった。
神座の呼び掛けに、ホマレはゆるゆると立ち上がる。
『ダッシュ練習だっけ……何本やります?』
「30秒間隔を10本です」
『は~い』
やる気が上がらないまま日陰から出ると、神座が少し離れた浜辺を指差した。
「向こうの波打ち際が空いてるので、そこで練習しましょう」
『えっ、いいの?』
「今なら人も少ないですし、距離的にも問題なさそうです。波打ち際は砂浜よりも足場が不安定ですから負荷が上がりますし、水をかぶりながら走るので熱中症対策にもなります」
