第12章 夏合宿
7月始め。キトウホマレは列に倣ってバスのステップから飛び降りた。
『到着……っと』
ジリジリとした日差しが、体に纏っていた車内の冷気を拐っていく。
夏合宿。これから2ヶ月の間、学園とは離れた土地で特訓に耽ることになる。
『ギンガちゃん、見て!海キレイだよ』
遠目に見える海に顔を輝かせるホマレの傍らで、ギンガウェーブは骨を鳴らしながら身体を伸ばした。
「ふぁーあ……そう言えばホマレは今年が初めてだったわねぇ。ここの海きれいよね……トレーニングのない日はアルターも誘って一緒に遊びましょうか」
『うん!楽しみだねっ』
バスの中でずっと寝ていたギンガウェーブが眠そうに宿舎へと向かっていく。
ホマレもそれに付いて、嬉しそうに歩いた。
それから点呼や着替え、昼食を済ませたウマ娘たちは各自チームやトレーナーと合流していた。
『セミの声すご~……』
鼓膜を引っ掻くようなジャワジャワとした騒音を聞きながら松林の横を通る。
アスファルトの路面に段々と砂が増え、やがて沈み込むような不安定な足場になった。
歩を進めるごとに、松脂の独特な匂いに混じった潮の香りが濃くなっていく。
少し先に波間が見え、ホマレは顔を綻ばせる。
『(海ひさしぶり。気持ち良さそう)』
松林を抜け砂浜に出た瞬間、視界いっぱいに青海原が広がった。
海面は太陽の光を反射しキラキラと輝き、さざ波は足元を誘うように寄せては返している。
『(遊びたい……けど、まずは神座トレーナーと合流しなきゃ)』
打ち寄せる波の音に惹かれつつも、神座の姿を探して海岸を見回す。
あらかじめ待ち合わせに指定されていた場所だ。
きっともう来ているはず。
ウマ娘やトレーナーが点在する砂浜を少しも進まないうちに、見慣れた黒髪を見つけた。
『あっ……居た』
休憩スペースの近くに荷物を置いて佇んでいる。
待たせてしまったな、とホマレは駆け足で向かった。
神座もすぐに気付いたようで、走ってきているホマレを見て日陰から出た。