第11章 朝練
6月初めの早朝。雨上がりの芝を1人のウマ娘が駆けていく。
走る後には、散らされた水滴が太陽の光を反射しキラキラと輝いていた。
『トレーナー!へへ、今のタイムどう?』
神座の前を通過したキトウホマレがその場で無理やり勢いを殺し、急停止しながら声を掛ける。
「ゴール直後に立ち止まらない。徐々にペースダウンしながら歩いて来てください」
『えー? だってさぁ』
「だってじゃありません。心臓に負担が掛かるから気を付けなさい」
『はぁ~い』
普段のホマレならちゃんと出来ていることだった。
しかし注意を受けてもなお機嫌よさげな表情を崩さない。
浮かれた顔でその場で軽く足踏みと深呼吸をし、急停止のリカバリーを始めた。
「やる気があるのはいいですが、あまりはしゃぎ過ぎないように。真面目に取り組んでください」
『ごめんなさい。最近ちょっとずつ芝コースでのトレーニング増えてるなって思うと嬉しくって……』
秋に向けた芝の舞台への慣らしに浮かれているようだった。
尻尾を高く振りながらホマレは歩み寄ってくる。
『それで、タイムどうでした?』
そう言いながらホマレは神座の手の中にあるストップウォッチを覗き込んだ。
『ダートの時より速い!』
「芝はスピードが乗りやすいですからね。それを考慮すると、これはあまり良いタイムではありません」
『ええっ?全力で走ったのに……』
相変わらずスピードが弱い。
ホマレは少しがっかりした様子で息を吐いた。
「伸び代はあります。次のレースまで3ヶ月あるので、それまで堅実に伸ばしていきましょう」
言いながら、神座は腕時計に目をやる。
登校が始まる手前くらいの時刻を指していた。
「少し早いですが、そろそろ切り上げましょう」
『はーい。今日の放課後は何するんでしたっけ?』