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ラストラインを越えて

第10章 観戦


『りょーかい。通路いま人でいっぱいですもんね』
少し不貞腐れたような素振りで指定席のテーブルに両肘を突き、ホマレは人気のなくなった中山のコースを眺める。
今はウィナーズサークルで勝者がファンサービスを行っているタイミングらしい。
サークルを囲むように人の群れが動いている。
さっきまでウマ娘たちが熱い戦いを繰り広げていた芝に目を向ける。
強靭な脚力で削り飛ばされすっかり荒れ果てた内ラチを眺めながら呟いた。
『いいなぁ……花形の重賞レース』
注目度や知名度の高いレースは芝で行われることが圧倒的に多い。
ダートの重賞もそれなりに盛り上がるけれど、人々を惹きつける魅力や栄誉は段違いだ。
「羨ましいですか」
『そりゃもう。早く私も芝で戦いたいですよ……』
地力をつけるためにと、ホマレはジュニア級からずっとダートで走らされている。
神座の考えによっては卒業までずっとダートになる可能性だってある。
風に吹かれて靡く芝を見つめながら溜め息を吐いた。
「……よほどの事がない場合、半年以内にあなたの路線を芝に転向する予定です。まだまだ優駿の境地には程遠いですが育成も行き詰まっているわけではありませんし……秋までには計画通り芝、追い込みでいけるように更に力をつけていきましょう」
『え……?』
芝に転向と聞いて、ホマレが瞬時に神座に顔を向ける。
伏せられていた両のウマ耳も期待にそそられてピンと立った。
「今日ここに連れてきたのは、芝のレースに対する意欲を上げる為でもありました。反応によってはダート路線に固定する判断もするつもりでしたが……それは必要ないみたいですね」
『えっはい! 芝路線がいいです!夏からでも今からでも!』
淡々と告げる神座に全力で同意する。
「まだ体が仕上がってないので夏までは見送りです。……しかし意気込みは確かですね。では、芝路線で確定ということで」
『やったー!言質取れた!撤回は無しですよ?』
「ええ。予定が延びないよう、より一層トレーニングに励んでください」
『はーいッ、頑張ります!』
ホマレは喜びのままに両腕を上げて、先程の不貞腐れた態度が嘘のようにはしゃぐ。
その声をよそに、神座は静かに視線をコースへ戻した。
荒れた芝の向こうでは、もう次のレースの準備が進んでいた。









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