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ラストラインを越えて

第10章 観戦


人気を獲得するためには強さ・個性・ドラマ性があった方がいい……らしいけれど、案外ファンになるきっかけはこういう単純な動機もなくはないのかもしれない。
ホマレは観客席の喧騒をよそに、待機所のウマ娘たちをじっと見つめる。
段々とゲートに収まっていく様子を見ながら、神座がホマレに言った。
「今日は単なる遊覧で連れてきたわけではありません。強者たちの走りをよく観察し、その目で学びを得なさい」
『は、はい……っ!』
間もなく出走となる。ホマレはまるで自分自身のことのように、発走を待ち構えた。
人々の視線もターフビジョンや右手側のスタート位置に集まっている。
『(自分で走るわけでもないのに……みんな真剣だ)』
ゲートが開く直前の、一瞬の静寂。
誰もが期待と緊張を孕み、18人のウマ娘たちを見つめていた。
『(開いた……!)』
ゲートが解放され、一斉に飛び出すウマ娘たちの姿がビジョンに映される。
発走時の反応は文句の付けようがない。全員好スタートだ。
『わっ、もう来た……』
まだ先行争いの段階だというのに、目の前を駆け抜ける速さはラストスパートを思わせた。
スタンドの前を通過していくバ群を肉眼で追っていく。
『すごく速いですねぇ……』
「ええ。集中しなさい」
チラリと隣に目を向けたホマレを、神座が静かに叱責する。
慌ててホマレは視線をコースに戻した。
『(もう第1コーナーだ……急坂もグングン登ってく……)』
この前のダートコースでホマレは中山の高低差にはかなり苦しめられた。
悪天候の不良バ場のダートと晴れの良バ場の芝では条件が全く違うだろうけど、坂は共通してキツイはずだ。
そんな坂をものともせず、ウマ娘たちは快調にコーナーを回っていく。
安定した速度で向こう正面に出て、長い下り坂を進む。
並びは特に前後することなく第3コーナーへ。
そこからじわじわと集団に動きが出始め、コーナーの中間辺りから歓声が段々と大きくなっていく。
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