第10章 観戦
クラシック級が始まってから4ヶ月が過ぎた。季節は春。
トレーニングやら実戦やらに明け暮れる日々のおかげでキトウホマレは着実に地力を付けていっている。
今日は休みも兼ねて、神座の引率で中山レース場に来ていた。
『うわ~、すごい人……!』
3階の指定席の階段を降りながらホマレが外の人混みを見て声を上げる。
ガラス越しに見える1階のスタンド席はコースとの境目の柵まで大量の人で隙間なく埋め尽くされていた。
「ええ。GⅠレースはこれだけの人々を熱狂させる大舞台です。成果が実れば、いずれあなたも同じ規模の群衆に見られながら走ることになるでしょう」
神座は視線をターフビジョンに移しつつ、席に着いた。ホマレも続いてその隣に座る。
『こないだのオープンレースの100倍くらい人いますね。こんなの、出走できただけでもすっごい名誉だろうな……』
よく晴れた午後。ウィナーズサークルではファンファーレの演奏が始まった。
皐月賞の出走時間までの少しの間、眼下で蠢く人混みを眺めながら雑談をする。
『トレーナーは誰が勝つと思います?』
「そうですね……。13番辺りかと」
神座がターフビジョンに映る待機所の様子を見ながら答える。
『私はー……あっ、あの黒い髪のウマ娘知ってる!あの人も強いから勝つかも』
うっすら見慣れている人物を見つけ、ホマレが興奮気味に指で指し示す。
『えーっと、たしか、エイシンフラッシュ……さん?』
神座が頷く。
「そうですね。実力も十分でしょうし、上位に食い込む可能性があります」
『勝つといいなぁ』
いい戦績を残しそうな強いウマ娘は学園内でも自然と知名度を得やすい。
ホマレはエイシンフラッシュとは目すら合ったことがないけれど、その姿と名前はぼんやり知っていた。
全然知らない存在が勝つより、見知った名前が勝つ方が何となく嬉しい気がする。
『(私がこれまでに出走したレースでも、私のこと知ってる人は応援してくれてたのかな……)』
ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。