第8章 初詣
見ると、神座が先ほどのビニールで今度は尻尾の周りを保護していた。
『ぎゃっ! 何ぃ……!?』
「何って……次は尻尾ですが」
当然のことながら冬毛は全身に及ぶ。
素肌のうぶ毛や髪の毛はホマレが個人で手入れしているようだったが、尻尾も耳と同じく伸びっぱなしだった。
『し、尻尾はいいです。恥ずかしいし……自分でできます!』
「いいえ。空気の流れを意識しながら切るので」
ビュンッと拒否するように振られた尻尾を避けながら神座が答える。
「まだ大人しく座っていてください」
そして軽くホマレの足を払い、椅子にゆっくり尻餅をつかせて座らせた。
『強引……!』
「耳で堪えられたのだから尻尾も大丈夫でしょう。ではさっそく」
神座がしゃがみ、ホマレの尻尾を大きめのブラシで梳くところから始める。
『んわ"ーーッ!! ヤダ、なんかゾワゾワする!!』
神座が尻尾を撫でるたび、腰椎まで昇りつめるような妙な刺激が走る。
慣れない感覚に戸惑ったホマレは身体を強張らせながら拒絶した。
「ブラッシングくらいで何言ってるんですか。それに最大限丁寧に扱っているでしょう」
『そうですけど、そうですけどさぁ……!』
座ったまま脚をジタジタして不快感を逃がそうとしているホマレを神座が窘める。
神座の手つきはプロそのものだったが、如何せんホマレの感度に問題があった。
『ゾワゾワするし、しかも超恥ずいぃ……!!』
「我慢してください。これも速く走るためです」
暴れるように跳ねる尻尾をいなしながら神座が作業を進めていく。
『ヤダーッ!! あ"~~~っ!!』
理想的な流線型になるまで切られ、梳かれていく尻尾の毛。
耳のときよりもハードな目に遭っている。
しばらくの間、トレーナー室ではホマレの奇声が響いていた。