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ラストラインを越えて

第8章 初詣


2人は初詣からそのまま学園に出向き、トレーナー棟へ入っていく。
正月だろうと練習に励む生徒達のためにほぼ全施設いつもと変わらず解放されているから、学園内にはそこそこ人の気配があった。
神座が自身のトレーナー室の鍵を開け、真っ暗な室内へ入る。そしてすぐに照明と暖房を付けた。
ブラインドも閉め切っていたため太陽が遮られ、外よりも冷えてるじゃないかとホマレは肩を竦める。
『寒いですね~』
「室温が上がるまで少し掛かります。それまで我慢してください」
ブラインドを開けながら神座が言う。
ホマレはすかさず差し込んだ光に当たりに行った。
冬の陽光で指先を照らし、わずかな熱に縋る。
『さっきのお茶、残しとけばよかった……』
「残しておいたところで、どうせ冷めて温くなっているだけです。それでよければさっき貰った分を返しますが」
『温かくないなら要りませーん』
ホマレはそう言いながら、近くの神座のデスクチェアに座って緩く回転した。
横滑りしていく景色のなか、神座がロッカーから散髪用の鋏と櫛を取り出してテーブルの上に置くのが見える。
『準備いい……。自分用ですか?』
「いえ、時期を見てあなたの冬毛を整えようと思って事前に揃えていました。その予定が前倒しになりましたが、ここに保管しておいてよかったです」
『そんなに気になってたんだ……』
ホマレが自分の耳の毛を触りながら呟く。
夏に比べて密度が上がり、毛足が伸びている。
『でもトレーナーが切ってくれるって意外です。美容院行ってこいって言われるかと思いました』
段々と暖房が効いてきた。デスクチェアから立ち退いたホマレはマフラーとコートをパイプ椅子の背もたれに掛けながら、並べてある2種類の鋏を覗き込む。
曇りのない艶々とした銀色がホマレの栗毛と青い瞳を鏡のように写している。
「短くするだけならそこら辺でもいいでしょうが、僕の目的はレースでの空気抵抗を減らすことです。機能性を重視したいので僕が切ります」
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