第8章 初詣
『屋台寄ってきましょ? 初詣の醍醐味!』
「行きたいのなら止めません。ですが食べた分、明日のトレーニングを調整するので何を摂取したか後で申告するように」
『えっ、一緒に来てくれないんですか?』
付いてきてくれると思ったのに、とホマレは少しショックを受けたような顔をする。
「僕は屋台に用はありませんからこのまま帰ります」
『うーん……じゃあ私もいいや。トレーニングきつくなるのも嫌だし』
遠ざかる囃子を惜しみつつ神社の裏門から出て、帰路を進む。
裏手側の道路だからか人通りはあまり無い。
冷たい風が顔に吹きつけ、ホマレはマフラーに鼻をうずめた。
『寒い~……あ、コンビニ寄りたい! ちょっと行ってきますね』
歩道の少し先に、通りに面したコンビニを見つけたホマレが小走りで入っていく。
そして神座がコンビニの前を通過する頃、ホマレも買い物を終えドタバタと出てきた。
そのまま合流し、また歩いていく。
『トレーナー、はいこれ!』
レジ袋から取り出したのは程よく熱い緑茶の入ったペットボトルだった。
『ほんとは肉まん買いたかったんだけど売り切れで……正月ってことでお餅買いました。トレーナーどっちがいいですか?』
神座がペットボトルを受け取ると、続けざまに袋から今度は大福餅と草餅を1つずつ出す。
「結構です」
『ダメでーす。全部私が食べたら明日のトレーニング大変なことになっちゃいます。だから一緒に食べません?』
そんなことを言いながらホマレは草餅を神座に押しつけた。
緑茶と草餅を手に神座は、ほんのわずかにまぶたを伏せる。
「次からは自分の分だけ買ってください」
そう言って財布から五百円玉を出し、ホマレに差し出す。
『え~、お金いりませんよ?』
「いえ。受け取るべきです」
お互いにいらないものを受け取り合い、寒空の下を歩いていく。
『食べながら帰ろ~っと』
自分の分の緑茶で暖を取りながらホマレは大福の包装を剥がした。
一口かじり、求肥の弾力と餡の甘みに、ふっと口元が綻ぶ。