• テキストサイズ

ラストラインを越えて

第1章 崖っぷち


新進気鋭と囁かれるのにまだ誰も担当にしていない新人トレーナー、神座出流。よっほど優秀なウマ娘でも選り好みしているんだろうか。
ホマレに自ら使い走りになる趣味はなかったが、それ以上に誰を所望しているのか気になったので恐るおそる訊いてみる。
「話があるのはキトウホマレ、あなた自身です。端的に言いましょう。あなたさえよければ、僕の担当ウマ娘になってもらいたい」
『わ、私があなたの担当ウマ娘……?』
意味が分からない。この人は何かを勘違いしているんじゃないか。
『昨日の選抜レース見ました?』
「ええ。あなたは午後の第3グループで4着でしたね」
『そうですけど……なぜ見込みのないウマ娘をお求めで?』
本来、誰も欲しがらない順位だ。期待値が低いにも程がある。それが今のホマレの立場であり実力だった。
「僕の都合に合うからです」
『……都合って?』
曖昧だ。何だか怪しい。ほいほいスカウトに釣られたら危ない目に遭うかもしれない。
神座の表情は相変わらず何も読み取れなくて、それが余計に不信感を煽った。
「時間がないので続きは放課後にしましょう。興味があるなら今日にでも僕のトレーナー室に来てください。説明も担当契約もそこでします」
追及しようとしたのに、神座はそれだけ言って歩き去っていっていく。
『え、ちょっと待って……』
追いかけようとしたものの、間髪いれずに昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。呼び止める声もチャイムに掻き消される。
『…………』
何だったんだろう。ウマ娘にとって魅力的な勧誘をされたはずなのに、何だか嬉しくなかった。
それより教室に戻らなければ。午後の授業が始まってしまう。
『あ……職員室行きそこねた』
いや、そもそも神座からのスカウトを受け入れれば次の選抜レースに出る必要はないんだ。
しかし本当に簡単に頷いてしまってもいいんだろうか?
神座にとってメリットのない契約に感じるし、さっきの勧誘自体なんだか実感が湧かない。
不安を募らせながら、ホマレはおとなしく教室へ戻ることにした。









/ 132ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp