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ラストラインを越えて

第7章 未勝利戦


『(よし……今のところ順調。あとは私が落ち着いて走るだけ……)』
ただでさえ芝に比べて足を取られやすいダートの砂。
それが水分を過剰に含み、快調に走ることを許してはくれない。
一歩一歩踏み込むたびに靴が吸い込まれるようだ。
全身に降りかかる冷たい雨も着々とスタミナを削っていた。
バ群がスタンド前を駆け抜け、第1コーナーに向かって進んでいく。
コーナーは苦手だ。ましてや今日は不良バ場ときた。
遠心力のせいで外に振られ、脚を取られかねない。
もし滑って体勢を崩しでもしたら、その一瞬で取り返しのつかない遅れを取る。
第1コーナーから第2コーナーにかけて、やや外に膨らみながら慎重に進む。
前を走るウマ娘たちから少し距離を取ってはいるけれど、それでも蹴り上げる泥水が度々顔にかかりホマレの視界を悪くしていた。
『(大丈夫……集中して……)』
目に泥が入ったって気合いで前に進み続けてやる。
なるべく平静を保ちながらホマレは中団につけたまま走っていく。
第2コーナーを抜け、向こう正面の直線へ。
コーナーの中間から始まったなだらかな下り傾斜がまだまだ続いていた。
下りはスピードが乗りやすい……だからこそ気を付けなきゃいけない。
『(やばい、マジで滑りそう!)』
レース前の控え室で、神座が水浸しのバ場での注意点をいくつか教えてくれていた。
そのうちの1つがこの下り傾斜についてだった。
スピードが出た勢いのままに踏み込めば最悪滑って転倒する。
それを防ぐために着地に余計な力を使ってしまうから脚に負担がかかりやすく、またバランスの維持にエネルギーを割くことになるから消耗しやすい。
『(ここでは絶対ペースを上げるなってトレーナー言ってた……!)』
なだらかな下りで自然に加速できたとしても、バ場の負荷のせいで後半に失速してしまうらしい。
話に聞いていた状況を目の当たりにし、脳はやや興奮状態に近くなる。
ホマレは徹底してスピードをセーブしながら進んでいく。
第3コーナーはすぐ目の前だ。
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