第6章 22時
11月の終わり頃。ギンガウェーブが風呂上がりに自室で尻尾のブラッシングをしていると、キトウホマレが帰ってきた。
『た……ただいまぁ……』
最近は寮の門限ギリギリの時間に帰って来ることが多い。今日も時間いっぱいトレーニングに励んでいたようだ。
自分のベッドの脇に荷物と上着を置くと、ホマレはそのままヘロヘロと床にへたり込んでしまった。
「お疲れ様。大変だったわね」
『うん……疲れた』
もう一歩も歩きたくない。そんな顔をしながらホマレが自身のベッドに肩を預ける。
『坂路ダッシュ……もうイヤ……』
項垂れるように俯せて呟くホマレを見ながらブラッシングの手を止めた。
「ふふ、かなりしごかれたのね。今度のホマレの未勝利戦、中山だったっけ? 頑張っててえらいじゃない」
『ん……』
「もうすぐお風呂のお湯が抜かれる時間だから早く行った方がいいわよ」
いつまでも床に座り込んで動かないホマレにそう声を掛けたが、何の反応もなかった。
ベッド脇に凭れかかったまま深い呼吸を繰り返している。
「……寝ちゃったの? 仕方ないわねぇ」
ギンガウェーブは立ち上がり、気絶したように眠りについたホマレを抱き上げてベッドに寝かせた。
汗や泥の染みたジャージ姿のままのホマレをシーツの上に横たわらせるのは少し憚られたが、放置して冷たい床に座らせ続けるよりかはマシだろう。
「起きたらちゃんとシャワー浴びに行くのよ?」
掛け布団をかけて、最低限の世話をしてからギンガウェーブは自分のベッドに戻る。
「おやすみ、ホマレ」
そう言い残して、そのまま室内の照明を消した。