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ラストラインを越えて

第5章 初戦後


「……こんな感じです。分かりましたか?」
『分かったけど、ちょっと……刺激が強すぎました……』
もう無表情に戻ってしまった神座に、ホマレが疲れたような顔で言う。
心が掴まれる衝動に抗うのは大変だった。
『てか、凄すぎないですか? トレーナーの前職ってアイドルでしたっけ?』
「いいえ、違います。僕は大多数が魅力的に感じるであろう動きや表情を再現しただけです。色んなものを見て、人に好まれる挙動を学びなさい」
そう言って、神座はまたホマレを鏡の前へ立たせる。
「では最後に全ポジションの曲合わせを1回ずつやりましょう」
時計を見ると、20時を指していた。 走りや筋トレの時とはまた違った疲労を感じながら、最後だからとホマレは気合いを入れ直す。4着以降、3着、2着、センターの順で計4回。それら全てを通しでやった。
『んん……ダンスでこんな汗かいたの初めて……』
踊り終えたホマレは汗をタオルで拭いながら息を吐く。
「お疲れ様です。あとはクールダウンをしたらそれで解散です」
『はーい』
静的ストレッチを始めるホマレを横目に神座も片付けを進める。
「……今回は振り付けと表現を中心に指導しましたが、歌唱のクオリティも課題です。毎パートの出だしで、歌詞を間違えてないか確かめるような不自然な力みや震えがあります。発声の弱さも直していきましょう」
『わ……やっぱダメでしたか』
至らないところばかりだ。 ふくらはぎを伸ばしながらホマレは目を伏せる。
「しばらく半月に1回はダンスと歌の練習を入れます」
『はぁい……』
レースのための練習が減る。またはその不足を補うために1日に課される分が増える。 どっちにしろ憂鬱だ。
『(私がもっと上手かったらよかったのに……)』
神座ならちゃんと次のレースに間に合うようにトレーニングを組んでくれるだろうけど、なんだか不甲斐ない。
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