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ラストラインを越えて

第5章 初戦後


何より目を奪われたのは――顔だった。
柔らかくも凛とした表情。口元の加減、瞼の開き、眉の角度……どの瞬間を切り取っても美術品のように整っている。
普段の鉄面皮からは想像できないほど自然で鮮やかだ。
『(あんな表情できたんだ……。てか、何でこんなに上手いの……?)』
ホマレはそんな疑問と共に食い入るように神座を見続ける。
明らかにトレーナーに必要な技量の範疇を越えている。
圧倒的な存在感。呼吸や足音すら魅了の一部に感じられた。
見えない何かに支配される寸前のように、どうしようもなく惹きつけられてしまう。
窓のない密室に2人きり。自分以外の誰もこれを見られないのがただただ悔やまれる。
観客が1人だけだなんてあまりにも勿体ない。
それくらい、歌い踊る神座の見せる表情や視線は格別なものだった。
才能――努力や鍛練などでは到底得られない、絶対的な力を感じてホマレは震えた。
『(あ……これ、ヤバいかも……)』
神座の絶大なパフォーマンスを見ながら、ふとホマレは危機感を覚える。
視線が交わることはない。けれど、その身のどこかがこちらに向くたび射抜かれたように心臓が跳ねる。
流れによって変わる表情や仕草が、観る者の心の奥に爪を立てているようだ。
まるで「アイドルが自分を見ている」と錯覚するファンの気持ちを強制的に味わわされるかのような気分だった。
もう訳がわからない。
思わず手のひらに汗が滲み、呼吸が浅くなる。胸の奥が熱を帯び、落ち着いていられなかった。
『(まずい、このままじゃトレーナーの魅力に呑まれる……負けてたまるか……!)』
神座のパフォーマンスは老若男女問わず惚れさせてしまいそうな危うさを孕んでいた。
一周回って目に毒だ。
ホマレは必死に気合で耐えながら、長い2分半をどうにか耐え抜いた。
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