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ラストラインを越えて

第5章 初戦後


ホマレにとって観客は観客でしかなかった。
走るウマ娘を、歌い踊るウマ娘を眺めに来ただけの人々。
それ以上でも、それ以下でもない。
「観客はただの見物客ではありません。皆一人一人があなたのファンになり得る存在です」
『私のファンに……?』
「ええ。彼らはあなたの競技人生を豊かにするための、とても大事な要素です。座学で習いませんでしたか?」
ホマレが首を傾げるのを見て、神座が続ける。
「ファンの数はウマ娘としての存在価値の指標であり、時には勝敗以上に重要視されます。支持が足りなければ、そもそも出場するレースすら限られてしまう……ファンを蔑ろにすると結果的にあなた自身の未来を狭めることになります」
神座の説明を真面目な顔で聞きながら頷く。
『GIレースとかのあれですか……』
「ええ。特に有馬や宝塚の出走権はファン投票で決まります。人気のあるウマ娘は成績に多少の波があってもこの舞台に立てますが……逆に、いくら実力があっても票が集まらなければゲートの前にすら立てません」
どちらも代表的な大舞台だ。
ホマレは重賞レースに出られるかどうかも定かではないけれど、多いに越したことはないだろう。
「だからこそ、一度でも掴んだ機会は逃してはいけません。「応援したい」「センターに立つ姿が見たい」――そう思わせる仕上がりを作るんです。歌、踊り、表情、視線……その全てで観客を惹きつけなさい」
『わぁ、打算的……』
もっと人道的な意図でファンを大事にしろと言っているのかと思ったけど違った。
けれど戦略のための方が神座らしい。
『(いっつも合理的かどうかでしか考えないもんな……)』
とにかくファンが必要不可欠な存在だということは理解した。
ホマレは一昨日の自分を思い出し、観客たちに対してちょっと申し訳ない気分になった。
「続きをやりましょう。次からはカウントのみで、全ポジションの動きの確認をします」
神座が室内に置いてあるメトロノームを弄り、課題曲より少し遅い拍に設定する。
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