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ラストラインを越えて

第5章 初戦後


「振り付けを覚えているとはいえ、現状は決められた大まかな動きを模倣しているに過ぎません。今のままだと踊らされているだけように見えるので、動作の一つひとつを“自分のもの”として表現できるよう練度を上げましょう」
『了解です……!』
また鏡の前に立ち、神座の指示のもとポジション別に踊っていく。
テンポが二割ほど落ちているから振り付けを間違えにくい。
けれど、普段の速度では誤魔化せていた動きの雑さやフォームの崩れが浮き彫りになるのを実感した。
比較的ゆっくりとした動きは意外とバランスが保ちにくく、筋肉が余計に疲れる。
『(思ったよりキツイ……!)』
リノリウムの上でぱたぱたとステップを踏みながらそれぞれのパートを繰り返す。
「膝の曲げが浅くなってきていますよ。あと重心が爪先に寄りがちなので中心を保つように」
『分かりました!』
休憩を何度か挟んではいるものの、集中が切れてきている。
「表情もです。途中で素に戻ってはいけません」
『はい……っ』
言われてすぐ直すが、頬の筋肉がぎこちなく引きつるのを感じた。
『(そろそろ……嫌になってきた……!)』
神座からの指摘をつど修正して、ダンスの完成度は着実に上がっている。
しかし、ひたすら同じ曲の振り付けをもう3時間も踊っているのもあり流石に飽きていた。
『(何かちょっとだけでも他のことしたい……できればメトロノームの音をしばらく聴かずに済むこと……)』
休憩はつい数分前に終わった。
テンポ練習を中断できる何かがないかとホマレは踊りながら思考を巡らす。
『と、トレーナー……!』
「はい。何ですか」
神座がホマレの体の動きから視線を外さないまま返す。
『あー……その、観客を惹きつける表情とか視線って……どんな感じなんですか? いまいちこう、分かんないっていうかぁ……』
なんだか言い方に小芝居感が出てしまった。 神座の見る先が、ホマレの動きから顔に移動する。
「…………」
『えっと……なんか良いアドバイスとか、ない、ですかね……?』
言葉の裏を見透かすような視線に、ホマレは思わず目を反らしながら言葉を継いだ。
すでに魂胆がバレたような気がして内心焦る。
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