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ラストラインを越えて

第5章 初戦後


「さっき僕が言ったことを意識しながら踊ってはいましたが、そのせいで気が逸れて何ヵ所も振り付けと歌詞を間違えましたね」
『…………はい』
正直、一昨日よりも酷いものだった。自分でも分かる。 俯くホマレに神座が続ける。
「あなた達ウマ娘はアスリートですが、アイドル的側面も大いにあります。抜群の歌唱力、一矢乱れぬ躍動的なダンス、愛らしい笑顔、清廉な眼差し……求められる完成度はとても高い。そのクオリティの高さに魅せられてファンになる者も多い一方で、期待外れのパフォーマンスを見せられればその瞬間に観客の熱は冷めます。一昨日も今日も、完璧には遠く及ばない」
『それは分かるんですけど……具体的にはどこをどう直してけばいいんですか? 』
ホマレが恐るおそる挙手をする。
今のところ動きと歌の両立だけで精一杯だ。それに加えて表情管理など、回数を重ねるだけでは習得できないことも言われている。
「そうですね、あなたの場合は技術より先に認識を改める必要があるので……まずは観客の視点を見せましょう」
神座が端末を出し、ある動画を見せる。
一昨日のライブの様子が最後方からの画角で写されていた。
『わぁ、撮ってたんだ……』
9人のウマ娘たちがステージの上で、水色の衣装をまといフォーメーションを組んでいる。
新バ戦のメンバーということもあり全員の動きはそれぞれぎこちない。
『(みんな初めてだし……仕方なくない?)』
ピョコピョコと踊る自分たちの姿を見ていると、ホマレは少しずつ違和感のようなものを覚えた。
初々しさに溢れたその舞台で、明らかに――自分だけ楽しそうに見えない。
『…………』
下手とか劣るとか、それ以前の問題に思えた。
ホマレは少しだけ神座の言わんとすることの輪郭を捉えられた気がする。
ふと、神座の視線が画面ではなく自分に向いていることに気が付いた。
ずっと反応を観察されていたらしい。
ホマレは気まずさと気恥ずかしさを覚えて、思わず顔を背けた。
「あなたのパフォーマンスは……ただのその場しのぎでしかありませんでした」
神座が動画の再生を止めながら言う。
「観る人に目もくれず、失敗しないことだけを祈りながら出番の終わりを待っている。こんな空っぽの歌と振り付けで一体誰が心惹かれるというのでしょうか」
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