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ラストラインを越えて

第5章 初戦後


「……ライブのとき何を考えながら歌い、踊っていましたか?」
『え? えーっと、間違えないように……次の動きとか歌詞とかのこと考えてました』
初めての観客の前でのライブで、緊張していた。
記憶が吹っ飛ばないようにするだけで精一杯だったことを思い出す。
「そうでしょうね。ステージの上のあなたの目や手足の動きは、常に自分の動きだけに集中していました。ミスを防ぐことは大事ですが……それは最低限の条件です。ファンは正しく動くだけの人形を観に来ているわけではありませんから」
責めるような口調ではないものの、冷ややかな指摘に自然とウマ耳が絞られる。
『人形……』
ホマレは神座の言葉を上手く呑み込めないまま、やや眉を下げながらツイストウォークに移行する。
体を捻るたびに視界に入る神座は、いつもの無表情で端末を操作している。
『つまり……私に足りてないとこってどこなんですか?』
「色々ありますが、一番は"ファンへの意識"です」
『ファン?』
神座に言われ、スタンドやステージ下からの視線を思い返す。
レースやライブを見に来た大勢の観客たち。ホマレはあの日それらの存在を認識してはいたが、"居る"という以上の関心はなかった。
照明の眩しさと無数のざわめきしか、もはや思い出せない。
「ウイニングライブはファンへの感謝を伝えるための場とされています。もちろんレースが最優先ですが、その後にあるウイニングライブも疎かにしてはいけません」
準備運動を終えたホマレを位置につかせ、神座がライブの課題曲の音源を再生する。
「まずはこの前と同じ3着のポジションから」
言われた通り、ホマレは一昨日と同じ振り付けと歌を曲に合わせてこなしていく。
先ほど神座に言われた、"自分だけに集中した動き"を改善しようと試みながら踊るも、出来ているのかよく分からなかった
「……目線は下げない。足の上がりが甘い。表情が固い」
『はい……!』
つど指摘されつつ、一度目の通しが終わった。
軽度のストレスで顔が引きつったホマレが顔色を窺うように神座に目を向ける。
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