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ラストラインを越えて

第4章 メイクデビュー


『(やば……前に出られない)』
内も外も塞がれたまま、ただ目の前の背中に合わせて脚を回す。
誰もが仕掛けどころを掴みきれず、ペースが伸びたり落ちたりを繰り返している。
砂を浴びながら、ホマレは完全にその勢いに飲まれつつあった。
『(ここで焦ったら絶対潰れる……!)』
めちゃくちゃだ。このままだとまともにスパートすることなくゴールするはめになる。
走りながらなんとか冷静さを取り戻そうとしていると、前の1人がよろけて空間ができた。
ホマレは反射的にそこへ身体を滑り込ませる。
「っ……!」
視界が開けた。砂を蹴り上げながらもなんとか加速を試みる。
息は荒い。けれどまだ走れる。
バ群に揉まれ、誰が前で誰が後ろかも分からない状況で、それでもホマレはただ前へと脚を出し続けていく。
砂煙の向こうで、ゴール板がぼんやりと見える。
そしてそこに向かう2人分の背中も確認できた。
『(まだいける……!)』
どうにか頑張って追い抜きたい。ホマレはその一心で身体を動かした。
しかし脚を回すたびに呼吸が乱れる。
肩が上下に揺れ、腕もうまく振れない。
下りで得た勢いもさっきの団子状態で削られ、ほぼ無いに等しくなっていた。
最後まで必死に走り続け、ゴール板の前を駆け抜ける。
目の前には相変わらず2人のウマ娘がいた。
『はあっ、はあっ……!さ、3着……』
粗く深呼吸をしながら減速していく。
メイクデビューを勝利で飾ることはできなかった。
悔しい。神座に申し訳ない。
しかし、このレースで分かったことがある。
『(私、思ったより走れてた……!)』
途中まで落ち着いて走れていたし、混乱の中ちゃんと持ち直すこともできた。
以前の自分では考えられない。
神座の指導がなければもっと酷い順位だったはずだ。
ホマレは振り返り、神座がいた辺りに目を向ける。
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