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ラストラインを越えて

第4章 メイクデビュー


『も、もし外側に弾かれちゃったらどうしましょう……?』
「そうなっても、決して焦らないように。慌てずに、無駄に脚を使わないことに集中しなさい。流れを見て内に潜り込めるならそれが最善ですが、リズムを崩さないことも大事です」
冷静でいることはそう簡単ではないはずだ。
ホマレは不安げに眉をひそめる。
『(私ちゃんとやれるかな……神座トレーナーみたいに落ち着いてられないから、難しいかも)』
神座のレースプランがどれだけ的確でも、それを確実に再現できる保証はない。
脚もタイミングも、精神面に左右されてしまえば簡単に破綻する。
ホマレは明日のレース展開にすでに諦観を抱きながら端末の画面を見つめた。
「ご存知の通り、メイクデビューでは全員が経験不足です。最初から最後まで混沌とした展開になりやすい。スタートは鈍いしポジション取りは乱れるし、ペース配分もめちゃくちゃです。未来の重賞ウマ娘も未勝利ウマ娘も一緒くたのレースなので、走りながら他のウマ娘の動きの良し悪しも観察してみるといいでしょう」
メイクデビューならではのレース運びの予想のつかなさ。
ライバルたちの得意不得意も作戦も癖もまるで把握できないまま自身も手探りで走ることになるため、想定外な展開になりやすいみたいだ。
『トレーナーも、メイクデビュー楽しみなんですか』
少し笑いながらホマレが言う。
公共の場ということで抑えめのボリュームではあるものの、ホマレには神座の話すトーンが普段よりほんのわずかに情緒的なものに感じられた。
「……いえ、そういうのではないです。真面目に聞きなさい」
『はぁい』
「とにかく、まず大前提として周囲のペースに惑わされないよう気を付けることです」
神座が少し座り直しながら話を続ける。
「前半に逃げや他の先行のスピードに付いていこうと焦って急げばすぐに自滅します。他のウマ娘が動いてもつられて速度を上げないように。あなたは無理に位置を上げず、中団から徐々に押し上げる形が理想です」
スピードに頼らない戦法の反復に、ホマレは頷きながら返す。
『前半はずっと我慢して、後半でガーッて行く感じですね?』
「ええ。落ち着いて、全体をよく見ながら走りなさい」
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