第4章 メイクデビュー
10月初め頃。神座と契約してから3ヶ月が経っていた。
特訓は思っていたよりも順調で、神座の言っていた「走らないトレーニング」も4週間ほどで終わった。
神座の指示通りにフォームや体幹、基礎筋力、柔軟性をしっかり身に付けて、以前よりも軽やかに走れている。
その日の練習後、トレーニング施設から撤収する際に神座がキトウホマレに言った。
「そろそろメイクデビューの日取りを決めてもいい頃合いです。10月中旬の出走を考えていますがよろしいですか?」
『もちろんです。やっと私もデビューできるんですね……!』
神座の指導のおかげで走り方やタイムは良くなってきている。
模擬レースの結果も悪くなかったし、問題なくメイクデビューを飾れるだろう。
ホマレは神座の提案に期待を膨らませながら嬉しげに尻尾を高く振る。
「10月半ばのダートは1600mか1800mのどちらかで絞ると、東京か京都の二択です。どちらもスピードが問われる舞台ですが……持久力とレース勘を測るのに好都合な京都レース場を選びます」
『京都……』
「東京レース場だと最後の直線で瞬発力勝負になりやすく、逃げや先行は差しに捕まりやすいので現状だと不利です。京都も時計が速い傾向にありますが、その分、前半で飛ばしたウマ娘が後半にバテる展開もありえるので、あなたのように粘って脚を運ぶタイプにも少なからずチャンスがあるでしょう」
淡々とした口調で告げる神座にホマレが頷く。
『わかりましたっ。レースまであとどれくらいありますか?』
「10月18日なので、あと半月です。11時出走になるので前日に新幹線で京都に向かう予定ですが乗り物酔いなどは大丈夫ですか?」
『ないです!』
「では、それで確定します。出走登録や当日に向けた調整や手配は僕の方で済ませておきます。あなたは体調管理などに気を付け、より一層トレーニングに励むように」
スケジュール帳にペンを走らせながら神座が言う。
季節の変わり目は気温の上下が激しい。もしレース前に体調不良を起こせばデビューはもっと先になってしまう。