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ラストラインを越えて

第3章 方針


ホマレの問いに、神座は短く息を吐いて言葉を継ぐ。
「レース展開を読む力を身につけるためです。前で走ることで、逃げ・先行のリズムを見て覚えましょう」
『見て、覚える……?』
「ええ。追い込みは"待つ"脚質です。待つには状況を読む力が要る。どの位置でどの脚質がどう動くのか、どのタイミングで仕掛けるのが最適か。それらを理解できなければ、いくら体力があっても無駄に終わります」
『……』
神座は記録紙から視線を上げ、淡々と告げる。
「長期的なアプローチにはなりますが、まずは先行で走って全体を見る目を養いなさい。ペース判断・他のウマ娘の動き・コース取りなど判断力がしっかり身に付いてから、改めて追い込みを教えましょう」
ホマレは神座の言葉を聞きながら、やや納得しながら頷いた。
厳しい口調が多いけれど、彼なりの育成の筋が通っている気がする。
『……わかりました。頑張ります』
ホマレが姿勢を正すと、神座は記録紙をテーブルに伏せ次の話題に移った。
「それと、トレーニングについてですが……しばらくは走らせません」
『えっ!?』
驚いた声を上げるホマレをよそに、神座は淡々と続ける。
「あなたは筋肉を効率よく使えていない。体幹と可動域のバランスが悪く、フォームが崩れています。今のまま走っても良くない癖が定着するだけです」
何となくで走っている部分を矯正しなければ余計に酷くなる。
走れないことはウマ娘にとってストレスになるけれど、間違いなくホマレには必要なことだった。
「まずは基礎を作ります。走るための姿勢、呼吸、下半身の安定――それらを徹底的に叩き込みます。自主練で勝手に走るのも禁止です。……走る以外で無茶をされても厄介ですね。いっそ自主練自体を禁止にします」
『そ、そんなぁ!』
「地力を上げるための準備です。走らせないのは最初の数週間だけで、ちゃんと基礎が身に付いたと判断できたらそれ以降は走らせます。辛抱しなさい」
走れないことと、自主トレーニングを完全に封じられたショックに震えているホマレに神座が平淡な口調で言う。
『(数週間って言ったって……仕上がりを認められなきゃずっと走れないままになりそうじゃん)』
ホマレは眉間にシワを寄せながら言葉を飲み込んだ。
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