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ラストラインを越えて

第1章 崖っぷち


数日後。選抜レースに参加するため、キトウホマレはレース用競技場に来ていた。
皆と同じ赤いジャージを身に纏い、出走の出番を待つ。
天気は相変わらず曇りで、空がやたら重々しい。
バ場のコンディションもそんなに良くはなさそうだ。
「今日も蒸し暑いね?」
「そりゃあ、6月だもん」
他の参加者たちがそんな会話をしながら背後を通り過ぎていく。
ホマレは湿気で広がった尻尾を手櫛ですきながら溜め息を吐いた。
『(……早くチームに入るかトレーナー見つけるかしないと)』
成績の良い娘は去年の4月の段階からすでにトップチームや担当トレーナーの元でトレーニングを受けている。
指導してくれる存在に出会えなければ、ウマ娘としての差は広まるばかりだ。
そう思いはするものの、自信はなかった。
チームもトレーナーも基本はスカウト制。自分から目立つチームや優秀なトレーナーに声をかけても、才能を示せなければ断られるだけ。
キトウホマレは未だに何からも、誰かからも声を掛けられていない。
のんびりはしていられないけれど、誰でも受け入れているようなチームに自分から行くのも嫌だった。
走るからには認められたい。求められたい。
『(今日こそスカウトをもらえるように、レースで良い成績を残さないと……!)』
そう意気込みながら、集合の合図と共に待機所の方へ向かった。
午後の選抜レースは調整中だったり評価途上のメンバーが中心だ。つまり、あまり期待されてないウマ娘たちが走る。
ホマレももれなくその内の1人だった。
呼ばれた参加者たちがスタートゲートに入っていく。今から走るのは午後の部の第1グループ。ホマレは第3グループで出走まで時間があった。
少しでも緊張をほぐそうと、邪魔にならない位置で軽くストレッチをしながら待機する。
「ねぇ、聞いた? 今日の選抜レースってさぁ……」
「えぇー! あの噂の? でも何で午後の部に?」
「普通来るなら午前の方だよね。その方が良いウマ娘見つけやすいんだしさ」
近くから何やらそんな会話が聞こえてくる。
内容はなんとなく分かる。今年トレセン学園に所属したばかりの新人トレーナーのことだろう。
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